郡上伝聞録GUJO DENBUNROKU

vol.1 郡上本染 渡辺染物店

- 430年繋いできた技と眼差し -

作業場にお邪魔すると、まず目につくのが8つの蓋のついた甕。
中を見せてもらうと藍色の水と泡ぶく。

真っ青に染まった指で、 甕の中身をかき回してくれる渡辺晋さん。

ある程度暖かくないとうまく染まらない
なので、冬の期間は鯉のぼりを作り、暖かくなって来た5月頃から藍染をスタートする。
昔は郡上八幡も町内ごとに神輿があり、春の祭りでは40を超える神輿が通りにひしめきあい、町内ごとに藍染の法被を作っていたという。
そんな神輿も今は数えるほどに減り、法被の注文も少なくなった。

 

今回は、冬の期間から始まる鯉のぼりの制作現場を見せていただいた。
いつも市役所沿いの大通りから、たくさんの鯉のぼりが泳いでいる庭が気になって仕方がなかった。そこが今回の訪問人、渡辺晋さんの作業場だ。

大学卒業後はアパレル企業に勤め、東京、中国に赴任したり。
しかし、いつかはこの仕事を継ぐのだ、とは漠然と考えていて、24の時に郡上へ戻って来た。自宅の下は作業場で、いつも親がそこで作業していたので、自然と子供の頃から手伝っていた。430年も続く染家。重要無形文化財に指定された現当主は14代庄吉さん。

作業は分業制。晋さんの作業場で生地の精錬から糊付け、染めまで行い、そこから立町の本家に持っていき、洗い、のりを落として、また戻ってくる。
次は布を切り、母親が鯉のぼりの形に仕立てて、本家で販売する。
全工程で3週間ほど。完全な家業である。

 

本日は4月2日。桜の満開の春先ではあるが、暑いくらいの陽気。
晋さんは、スピーディーに次から次へ色を塗る。
庭にいっぱい広げられた7つほどの布地に、まずは黄色、次は赤、青、最後に黒。
さらに2度塗りして色の濃淡を出していく。
暑すぎてもすぐに乾燥してよくないし、寒すぎても乾燥が遅くなってよくない。
天候と気温によって、豆汁(ごじる)の濃度を調整しながら、顔料に混ぜていく。
「勘やね」という言葉が納得するくらい、スムーズに次から次へ色の具合を見ながら調整していく。
その目は真剣そのもの。
自然な刷毛の目が、鯉の勢いを表す、、、

重要無形文化財、というとお値段が高いというイメージがあったが、
郡上本染で染められたいろんな年代の法被を比べて見てみると、
年数が経てばたつほど、色あせて、またその色合いが美しい。
戦前に作られたものが、今も現役で着ることができる。
長く時間が経つほどに熟成するかっこよさ。
それこそが、大事に次世代に伝えていきたいものではないだろうか。

 

「ただただ、自分の役割として繋いで行く。」
そう話す晋さんの目は、温かくも、静かで揺るぎない。
繋がれて来た技への敬意と使う方への愛情が感じられる・・・熟成された眼差しだと感じた。

 

 

郡上本染 渡辺染物店

http://www.gujozome.jp

インタビュー

絵:大坪千賀子
写真:スタジオ伝伝 川島なみ
文:スタジオ伝伝 藤沢百合